後世への最大遺物

2015年に静岡県掛川市で起業した一人社長のBlogです。日々の雑感や経営の話など。

『帰ってきたヒトラー(原題:ER IST WINDER DA)』感想

2016年9月8日、浜松にあるシネマイーラにて『帰ってきたヒトラー(原題:ER IST WINDER DA)』を観てきた。

gaga.ne.jp

現代にタイムスリップした本物のアドルフ・ヒトラーが、モノマネ芸人として誤解されてTVに登場し、瞬く間に人々の心を掴み、スターとなっていくというストーリィ。

前情報なしで観に行ったのだが、オリヴァー・マスッチ扮するヒトラーとドイツ各地の道行く市井の人々とを会話・交流させ、そのドキュメンタリー・シーンをフィクションの中に挿入していくという手法に驚いた。

どこまでが台本としてつくられたコメントで、どこからは本当にリアルなコメントなのかということがわからなかった。移民差別的な発言がそこかしこに見られ、まあフィクションだろうと楽観的に観ていたが、終演後パンフレットを読んだところ、どうやら「台本」の通りに話された台詞ではないらしいとわかり愕然とした。

ヒトラーのユダヤ人に対する人種差別は広く知られた話だが、本作劇中においても、「ドイツ人としての誇りを取り戻すこと」と「移民を排斥すること」の重要性を訴え、市民に投げかけ、それを受けた人々が自分の言葉で外国人の非難を始めるところに薄ら寒さを覚えた。

また、ドイツという国ではヒトラーという存在はタブー視されている存在なのかと思いきや(当然本人なはずがないとわかっているからだとは思うが)多くの人びとが好意的に話しかけていることにまた驚いた(もちろん一方で中指を立てている人もいた)。

ヒトラーを演じたオリヴァーへのインタビューの中で、街の人々の反応を見てどのように感じたかについてコメントしている箇所を引用する。

信じられなかった。まるで僕が人気歌手ででもあるかのように瞬時に注目を集めたんだ。人だかりができて、みんなが僕と自撮りしたがった。(中略)僕がメイクをして衣装をつけた役者だということを完全に忘れている人たちもいて、彼らは真剣に僕に話しかけてきた。彼らとの会話で、人がいかに騙されやすいか、そして人がいかに歴史からあまり多くを学んでいないかがわかったんだ。

資料:『帰ってきたヒトラー』パンフレット

そして本作で最も恐ろしいなあ、と感じたのは、鑑賞後の印象としてヒトラーに好印象を持ってしまう、与えられてしまうという点である。

なぜドイツ国民がヒトラーを支持したのか、さらに現代の例で言えば、なぜ合衆国市民がドナルド・トランプ氏を支持しているのか、外側から見ていると全く理解に苦しむ…と思っていたのだが、その感情が少しだけわかってしまうような気がする。

自身の環境、生活に不満があり、そのわかりやすい原因として移民や難民を明示され、不満の吐き出し先を提供してもらえる。理屈ではなく、感情のはけ口を与えられたことが、ヒトラーやトランプ氏が支持された理由の一つではないか。

そして、本作ではヒトラーは、狂気や不安定な精神を持ちながらも、それ以上に信念を持った政治家、革命家として描かれている。そのため、その話す内容には全く頷けない僕ですら、好印象を抱かされてしまう。そして、実際ヒトラーはこのような人を惹きつける何かを持った存在だったのではないか。

ドイツに限らず、日本も人口の年齢別構成や経済成長率からすれば、停滞期、もっといえば衰退期に入りつつある国家といえる。今後、さまざまな不満が蓄積され、外国人排斥を掲げる政治家が支持されることもありえない話ではない。事実、7月に開票された東京都知事選挙では、極右団体代表の桜井誠氏が11万票を得ている。

ドイツでは、わかりやすい問題と解決策をセットで(それが真実か否かは関係なく)、かつ信念と確信を持って訴えかける「強い」指導者が求められている、のかもしれない。

さて、これが「ドイツでは」なく、「アメリカでは」「日本では」…一体、どうだろうか。