後世への最大遺物

2015年に静岡県掛川市で起業した一人社長のBlogです。日々の雑感や経営の話など。

外国人が活躍しやすい「場」をつくる国際化戦略

本記事は、毛受敏浩編著『自治体がひらく日本の移民政策―人口減少時代の多文化共生への挑戦』(明石書店)に寄稿したコラムの原案である。

同書は、日本の地方創生に関する現状、これまでの多文化共生政策の歴史を概観した上で、各地域においてその第一線で多文化共生の取組を推進する人々からの報告を集め、自治体を軸とした今後の移民政策の指針について示したものである。
その中で、戸田も「外国人が活躍しやすい「場」を作る国際化戦略」という題で10ページほどの寄稿をさせていただいた。
今後、日本において考えていくべき移住する人々との向き合い方について考えるよい材料となる一冊であり、ご関心のある方はぜひご一読いただきたい。

www.akashi.co.jp

 

なお、本記事の「1.はじめに」は書籍前半の内容と重複するため、書籍には掲載されていない。また、編集部による校正前の原案であるため、構成・文言が掲載原稿とは異なることをご了承いただきたい。

以下本文。 

 

1.はじめに

2015年12月現在、日本政府では「地方創生」が重要な政策テーマとして掲げられている。国では、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局を中心として、人口減少問題の克服、成長力の確保を目指して、地方における雇用の創出、地方への人材流入などの戦略が採られている。

これを受けて、地方自治体においても地方版人口ビジョン・総合戦略の検討が進められ、すでに多くの都道府県・市町村において策定が完了している。

これらの地方版人口ビジョンを見ると、その多くが人口を維持ないしは増加することを目標としている。一方、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」によれば、2040年の総人口は約7割の市町村で 2010年に比べ2割以上減少し、2040年には65歳以上人口が40%以上を占める自治体が半数近くに上るとされている。

この推計結果を踏まえれば、多くの地方自治体が人口ビジョンで謳っている人口の維持・増加という目標を達成することは難しい。

今後、地方自治体においては、人口が減少していくことを前提としながら、それでも若者の流入増加・流出抑制を図るとともに、需要が縮小する地域内だけで文化・経済・産業を完結するのではなく、海外を含む地域外との交流・連携を進めていくことが必要となる。

本稿では、仕事の場、学びの場、暮らしの場として、地域に根を下ろし、地域に参加し、海外と地域をつなぐ外国人について紹介する。 そして、こうした地域で活躍する外国人をモデルケースとしながら、それぞれの地域にいる外国人と協働し、ともに地域を元気にしていくための方策について考えていきたい。

 

2.外国人が発信する日本の伝統文化・産業

現代日本では、多くの外国人が企業等に勤め、あるいは会社を経営し、日本経済を支えている。

法務省入国管理局によれば、2014年に留学生が日本企業等への就職した人数 は12,958人にまで増加している。現在では多くの留学生が日本企業に就職し、業種・職種を問わず活躍している。

また、企業等における一般的なビジネス活動だけでなく、日本の伝統文化・産業分野でも多くの外国人が活躍しており、杜氏として日本酒造りに精を出すイギリス青年や、アメリカ出身の落語家等もいる。また、国技である相撲もモンゴル等外国出身者が支えている状況にある。

ここでは、外国人が主体となって、和包丁、日本茶、弁当箱といった日本の「食」に関わる伝統文化・産業を海外に発信している事例について紹介し、地域活性化と外国人の関わりを考える一つの材料としたい。

(1)包丁の魅力を世界に伝える発信基地

はじめに紹介するのは、包丁専門店「TOWER KNIVES OSAKA(タワーナイブズ大阪)」を経営するビヨン・ハイバーグさんである。

子どもの頃に翻訳された人気漫画「子連れ狼」を読んで日本に興味を持ち、来日したという。ビヨンさんは、刀をはじめとした日本の刃物に大きな関心を寄せ、大阪にある包丁・刃物を扱う卸売会社に入社。その後、包丁の素晴らしさを顧客に直接伝えるためのショーケースが必要であるという持論に基づき、来日20年目の2011年に独立し、2012年に大阪・新世界で包丁専門店TOWER KNIVES OSAKAを開店した。

特に、大阪の伝統工芸品である堺包丁に惚れ込み、日本だけでなく、世界中に堺包丁の素晴らしさを発信している。

2014年には、堺市竹山修身市長、平田多加秋市議会議長(当時)がTOWER KNIVES OSAKA を訪れ、ビヨンさんの堺刃物普及への貢献に対して感謝状が進呈されている。また、堺市の観光PRにも協力し、堺市の観光パンフレットなどを店舗に置いている。

TOWER KNIVES OSAKAには、観光口コミサイトなどで高い評価を受けており、多くの外国人観光客が訪れる。ビヨンさんは初めて包丁に触れるという外国人のお客様に対し、じっくりと時間をかけて説明し、実際に試し切りをしてもらい、購入者には包丁の研ぎ方など長く使うためのコツも伝授している。当然、これらの説明は日本語だけでなく、英語で聞くことができる。

さらに、2015年7月には、東京スカイツリーに近接し、日本と世界とを結ぶゲートシティを目指した商業施設である「東京ソラマチ」にもTOWER KNIVES TOKYOを出店し、食材の本来の味をより引き立てる日本の包丁を体験できる場を提供している。

大阪・新世界の新名所にもなりつつあるTOWER KNIVES OSAKA、新規開店したTOWER KNIVES TOKYOは、多くの外国人観光客が訪れる「本物」の包丁の魅力に触れる発信塔として、今日もそびえ立っている。

www.tokyo-solamachi.jp

(2)日本茶の魅力を再発見する外国人の視点

京都府南東部に位置し、古くからの茶生産の歴史を持つ相楽郡和束町。人口約4,000人の小さなまちだが、このまちには世界各国から多くの外国人が訪れている。

その理由の一つが和束町にある「京都おぶぶ茶苑」である。同社は、「日本茶を世界へ」を合言葉として、日本茶の魅力を世界に伝える活動に取り組んでいる。

その一環として、和束町にてお茶摘み・製茶体験ができる外国人観光客向けツアー「Japanese Tea Tour」や、世界各国での日本茶テイスティングイベント等を実施している。また、茶業・農業に関心のある若者を対象として農業インターンシップ生を常に受け入れているが、そのほとんどが外国人である。

こうした取組を進める中、農業インターンシップを経験した外国人の中から、和束町に移り住み、おぶぶ茶苑に入社した若者がいる。リトアニア出身のシモナ・ザバツキーテさんだ。

シモナさんは2013年に京都おぶぶ茶苑のインターンシップに参加した。子どもの頃から日本の文化やお茶が好きだったという彼女は、2012年にイギリスの大学を卒業した後、インターネット上で京都でのインターンシップを探し、その中で辿りついたのが京都おぶぶ茶苑だった。

3カ月間のインターンシップの期間が終了した後は、帰国してビジネスを立ち上げる予定だったそうだが、もっと勉強したいと感じて、2013年12月に京都おぶぶ茶苑に入社した。

現在は、英語版の通販サイトの管理・運営を担当し、インターネットを通じて全世界から寄せられる購入希望や問合せに対応している。 また、流暢な英語・日本語を話すシモナさんは、茶体験ツアーに参加する外国人のガイド役としても活躍し、日本茶和束町の魅力を伝えている。

日本国内では、ペットボトル入りのお茶飲料の普及により、急須を使って茶葉からお茶を淹れる人々は年々減少している。しかし、海外から和束町を訪れ、日本茶を飲んだ人々は口々にその素晴らしさを語る。シモナさんのような外国出身の人々の目から見直されることによって、日本から失われようとしている文化が再評価されているのである。

www.obubu.com

(3)弁当箱の販売を通じたBENTO文化の普及

2012年、京都市中心部にユニークな弁当箱専門店がオープンした。フランス出身のベルトラン・トマさんの経営する「Bento&co」である。

日本のアニメが好きで、日本語や日本文化を学んでいたベルトランさんは2003年8月末より京都大学に留学した。卒業後は帰国する予定だったが、京都の魅力に触れ、卒業後もワーキングホリデーのビザを取得し、そのまま京都でアルバイトを続けた。

しかし、彼はアルバイトをするだけでなく、フランス人を対象として日本のさまざまな文化を紹介するブログを開設。日本文化に対する興味・関心のあるフランス人読者が多くいる中で、フランスにおいて「弁当」が注目されていることを知り、2008年に弁当箱の海外向けインターネット通販を始めた。 ベルトランさんの通販サイトは好評を博し、当初フランス語のみだったサイトも2010年に英語版、2011年には日本語版サイトもオープンし、現在は欧米を中心に世界90カ国の国々から注文が舞い込んでいる。

また、彼の活動は「弁当箱」というツールを販売するだけには留まらない。「BENTO」という文化を世界に広めるため、サイト上で毎年「BENTOコンテスト」を開催している。これは、定められたテーマ(「おにぎり弁当」など)をもとに、自慢の弁当を撮影した写真を募るフォトコンテストである。このコンテストにも20カ国以上の国からの応募があるという。

日本では、「弁当を食べること」や「弁当箱」は何気ない日常のものであり、海外で注目を集め、人気があることはなかなかわからない。日本人が気付かない日本の魅力を見つけ、それを海外にわかりやすく伝えていく、こうした取組が外国人の手によって進められているのである。

www.bentoandco.jp

 

3.地方自治体による外国人の活躍に向けた取組

ここまで見てきたように、多くの外国人が地域の文化・産業の担い手として活躍している。取り上げた事例はいずれも民間事業者によるものだが、こうした地域の魅力発信につながる取組は、今後地方自治体においても求められるものと言える。

そこで、以下では、外国人の地域社会への参加や地元企業就職、ビジネス支援に取り組む地方自治体の事例として、大阪市大阪府の取組について見ていきたい。

大阪市は、2013年に大阪府・市共通の「大阪の国際化戦略」を策定した。その目標は「大阪の国際競争力の強化」であり、そのために「世界・アジアから、多くの人・モノ・資金を呼び込む」 「人材・技術の国際競争力を高める」「諸外国都市との相互利益の関係を築く」施策を展開していくこととされている。

この戦略に基づき現在もさまざまな事業が実施されている。ここでは、その中でも特に大阪に住む外国人と連携している事業について紹介する。

(1)外国人留学生による地域への参加・協働

大阪市では、高度人材の卵である外国人留学生の地域への定着を促すため、「OSAKA留学生ネット」というネットワークを構築し、留学生の地域社会への参加を促進している。

OSAKA留学生ネットは、大阪・関西地域に在住・通学する外国人留学生を対象とした登録型サイトである。これに登録すると、留学生は大阪市や地域団体、民間団体が募集する「協働プログラム」に応募することができるようになる。

市は、協働プログラムへの参加を通じて、留学生に日本の社会習慣・商習慣などを体験してもらいながら、大阪に愛着を持ってもらうことを目的として同事業を実施しているという。

過去に実施された協働プログラムについて見ると、地域で開催される音楽コンテストやスポーツ大会などイベント運営の補助、英語による子どもたちとの交流事業のサポートなど、さまざまなものが実施されている。

特徴的なプログラムとしては、住吉祭(大阪三大夏祭りの一つ)で神輿の担ぎ手となる、レトロな街並みが残る空堀エリアでフィールドワークをして地域の魅力を発見する、大阪港で開かれるフリーマーケットにてモニター出店する、観光客にボランティア通訳として対応するといったものなどがある。

こうしたプログラムの実施により、留学生が大阪の地域文化を知ることができるだけでなく、大阪のまちづくりに留学生の視点を活かすことができ、観光振興・地域振興につなげていくことができる。

大阪市の構築するOSAKA留学生ネットは、地域に暮らす留学生の積極的な地域社会への参加を促しながら、その力をまちづくりに活かしつつ、さらに留学生と地域との関係づくりを促す事業の好例と言える。

www.osaka-ryugakusei.com

(2)外国人留学生の地元企業への就職促進

公益財団法人大阪府国際交流財団と大阪府が共同設置した大阪府国際化戦略実行委員会では、世界から優れた人材を呼び込み、大阪の国際競争力を強化するため「留学生就職支援(留学生・企業相互理解促進)事業」を実施している。

この事業の一環として、同委員会では、日本での就職を目指す留学生を支援するため、大阪府在住・在学の外国人留学生を対象に、外国人留学生と企業の交流会を定期的に実施している(2015年度は全4回開催)。

交流会は座談会方式で行われ、企業の人事担当者や外国人社員から、事業概要や採用、人材育成、入社後のキャリアなどについて話を聞くことができるというものである。参加企業・留学生は少人数としており(企業4社程度・留学生20名程度)、参加者間でゆっくり交流できるものとしている。 留学生にとっては、就職活動の開始前に日本企業の話を聞くことのできる貴重な機会となっている。

(3)外国人によるビジネス・事業創出の支援

①大阪イノベーションハブの設置

大阪市は、大阪を世界市場に挑戦する起業家や技術者が集まるハブとするため、「大阪イノベーションハブ」(以下、OIH)というビジネス創出支援拠点を設置している。

OIHは、大阪をハブとして全国から起業家を引き寄せ、世界で勝負できるビジネスを生み出すことを目指し、「大阪から世界へ」をテーマとしている。 その実現のため、ビジネスのスケールアップにつながるプログラムを展開し、多様な人・企業のコミュニティ形成やビジネスプランの事業化をサポートしている。

OIHは外国人・日本人ともに参加できるコミュニティだが、グローバルビジネスを意識したものであるため、英語による事業アイデアのプレゼンコンテストや、国際イノベーション会議Hack Osakaなどが開催されている。これにより、大阪・関西在住の外国人起業家・経営者が集まる場となっており、交流が生まれている。

例えば、関西を訪れる外国人旅行者に快適に過ごしてもらうことをテーマとした観光アプリケーションを開発するハッカソン「Kansai MashApp!」では、日本人だけでなく、関西在住の外国人や留学生との協働により開発が行われている。 その他、日本の起業家・起業志望者を対象として、スタートアップの聖地であるシリコンバレーへのツアーを開催しており、起業家の国際的な交流を促進している。

www.innovation-osaka.jp

②外国人起業支援セミナーの開催

大阪市は、起業を考えている・予定している外国人および留学生のための「外国人起業支援セミナー」を毎年開催している。

同セミナーでは、実際に大阪で起業した外国人起業家による体験談を聞くことができ、そのリアルな内容は外国人・留学生にとって非常に興味深く、参考になるものである。また、行政書士から、外国人が起業する際の留意点(在留資格変更手続など)についての解説も受けることができる。

2015年に実施されたセミナーでは、約30名の外国人が参加し、事業を立ち上げる際に重要となる「事業計画策定」について専門家からの講義が行われた

また、参加者は事前にビジネスプランを考え、持参してくることとしたため、例年以上に活発な情報・意見交換が行われたとのことである。

外国人を対象とした創業支援は全国的にも例が少なく、大阪市におけるこれらの事業は世界を舞台に活躍する人材を地域で発掘、育成する取組として参考になるものと言える。

 

4.外国人が活躍しやすい「場」をつくるために

ここまで、地域において外国人が日本の伝統文化・産業を海外に発信している事例について紹介するとともに、大阪市をモデルとして地方自治体による外国人の活躍に向けた施策について概観してきた。

これからの日本社会・地域においては、外国人の存在感はますます大きくなっていくことが予想される。 こうした中、日本各地において外国人が活躍しやすい環境が整えられ、彼女/彼らとともに力を合わせて経済・文化の振興に取り組む地域がひろがっていくことだろう。

本稿で紹介した3人の外国人はいずれも和包丁、日本茶、弁当箱といった日本の「食」に関わる伝統文化・産業を海外に発信している。

地方自治体や地域振興に取り組む団体においては、こうした動きを自然発生的に待つのではなく、地域に暮らす外国人と積極的に連携し、彼女/彼らが活躍しやすい「場」をつくっていくことが求められる。

最後に、こうした外国人とともに地域を活性化させるための具体的なアイデアを2つ示して本稿の結びとしたい。

①外国人とともにつくるインバウンド受入体制

2015年に訪日外国人観光客数は年間約1974万人となり、東京オリンピックパラリンピックの開催に向けて今後も増加が見込まれている。

こうした中、多くの地域でインバウンド受入拡大に向けた取組が進められているが、受入経験やノウハウに乏しい地域も多い。

こうした地域において、地域資源の再発見や編集、受入環境の改善に向けて、外国人参加によるフィールドワークを行い、彼女/彼らの視点で評価するといった取組が考えられる。これにより、日本人だけでは見つけにくい地域の魅力、課題の発見につながることが期待される。

②海外向け商品の企画・開発へのモニター参加

人口減少による地域内の需要縮小に対応するため、地方においても、海外に目を向けて商品開発・販路開拓に取り組んでいく地場企業は今後増加していくことが予想される。

その際、企業の輸出ターゲットとなる国・地域からの出身外国人にモニターとして参加してもらい、商品の内容・デザインをブラッシュアップしていくことが考えられる。地方自治体においては、こうした企業と外国人をマッチングする役割などが求められる。

 

筆者の住む静岡県掛川市においても、市では地場産品である掛川茶の海外輸出や、外国人観光客の誘致・受入について積極的に取り組んでいくこととされている。

上記に挙げた取組は、いずれも筆者が今後取り組む予定のものであり、自身も地域の外国人や留学生と連携しながら、地域の国際化や経済・文化交流を推進していきたいと考えている。

今後、国境を越えた人の移動がますます増えていく中で、日本における外国人がその力を発揮する場はひろがり、またそれが日本社会の活性化にもつながっていくだろう。

筆者も自身の事業活動を通じてその橋渡しの一翼を担いながら、全国各地でこうした取組がますます活発に進んでいくことを祈念して、本稿の結びとしたい。

 

※本稿の作成にあたっては、ビヨン・ハンバーグ氏、シモナ・ザバツキーテ氏、ベルトラン・トマ氏、大阪市経済戦略局立地推進部都市間交流担当・イノベーション担当のご担当者殿にご協力をいただきました。記して感謝します。