物語の力で世界を変えるということ:山本弘『アイの物語』を読んで
「その候補者に選ばれる資格は何だ?」
「物語の力を知っていること」
「物語の力?」
「フィクションは、『しょせんフィクション』ではないことを知っていること。それは時として真実よりも強く、真実を打ち負かす力があることを」
----- 山本弘『アイの物語』
山本弘『アイの物語』(角川文庫)を読んだ。
すごくよかった。すごくよかった。すごく、よかった。
大事なことなので三回言いました。
世界には、物語の力によって世界を変えようとしている作家がいる。
彼らはフィクションの力を信じ、物語が人を変え、世界を変えることを信じている。
そして山本弘もまた、本気で今在る世界を物語の力で変えようとしている作家の一人なのだろう。
人類が衰退し、マシンが君臨する未来。物語は、「僕」が「アイビス」と名乗る美しい女性型アンドロイドと出会い、闘い、囚われるところから始まる。
そのアンドロイド、アイビスは僕にロボットや人工知能をモチーフにした6つの物語を毎夜読み聞かせた。
アイビスは、僕に何を知らせようと、何をさせようとしているのか。
6つの物語を聴き、最後の、7番目の物語である「アイの物語」を聴いた「僕」は再び旅に出る。
それは自分を変えた物語の力を以って、今度は自らが世界を変えるための旅だ。
物語の力に打ちのめされた人間には、二通りの生き方が待っている。
物語の力を信じ、自らも物語をつくり世界を変えようとする作家になる者。
物語の力を受けて、現実を変えるために活動家になる者。
『アイの物語』に登場する「僕」は後者になることを選んだ。
そして僕自身も後者の道を選んで、今まさにその道を亀の歩みで進んでいるところ。
『アイの物語』の中ではヒトの夢が生んだ存在としてのマシンが、人の夢と理想を実現しようとしていた。
僕自身は、ヒトがヒトの夢を理想を実現することをまだ諦めていないので、その世界に向けてできることをしていきたいと思う。