人を分かつ境界〜「ノー・エスケープ 自由への国境」(原題:DESIERTO)
恐怖を覚える映画だった。
エイリアンよりジェイソンより、単に銃を持った人間の方が怖い、ということをひししひしと感じた。
物語は非常にシンプルで直線的。
メキシコから移民たちが非正規入国する
→その移民たちを国境で発見したアメリカ人が殺す
→移民たちは逃げる
以上。登場人物たちの回想シーンなどもなく、舞台は国境の砂漠地帯のみ。
主人公と一人の少女を除けば、移民たちの大半はほとんどバックグラウンドを語られることもなく、死ぬ。
彼らをハントするアメリカ人についてもその背景が明文的に深掘りされることはない(演:ジェフリー・ディーン・モーガンなので端々からその人間性を感じられるものの)。
本作で恐ろしいのは、ハンターであるアメリカ人がその相棒たる猟犬の死を深く嘆き悲しむところだ。
淡々と不法移民を銃撃する彼は、血も涙もない怪物ではなく、長い時間を共に過ごしたパートナーを大切に思える人間なのである。
そうした人間が人を人とも思わず虫けらのごとく撃ち殺していくところに戦慄を覚える。
そしてこれは決してスクリーンの中のフィクションとは限らない。
いま、この瞬間、現実に起きているかもしれない話だ。