後世への最大遺物

2015年に静岡県掛川市で起業した一人社長のBlogです。日々の雑感や経営の話など。

めざす未来のための仕事をしよう(2016/10/19 掛川西高校社会人講演概要)

2016年10月19日、静岡県立掛川西高等学校にて、1年生を対象とした社会人講話を行った。

実施目的は「第一線で活躍する社会人から、仕事の内容や難しさ、やりがい等について学ぶことを通して、「働く」「生きる」ことについて理解を深める。また、職業についての適性や職業に就くまでのルートについて知り、生徒個々の進路選択の一助とする」とのこと。

時間は講義40分・質疑応答20分。講師陣は公務員、税理士、消防士、建築士etc...さまざまな職業から16名が集められ、生徒さんは自分の関心のある講師の話を聴くというもの。戸田は「会社経営者」という枠での担当。来場者は約40名。

講演資料は以下の通り。 

 

以下、講演内容の概略を記述する。

0.自己紹介(略歴)

静岡県立掛川東高等学校を卒業し(なので西高OBではない)、その後1年浪人して筑波大学へ入学した。同大では教育学を主に学んだ。

大学卒業後は三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社、大阪市役所や京都市役所、沖縄県庁などの地方自治体や、経済産業省厚生労働省などの中央省庁からの受託調査業務に取り組んだ。

丸5年大阪にて同社に勤めた後、2015年に掛川へ戻り、起業した。現在は日本茶通販・輸出事業、中小企業向けWEB制作事業、行政の計画策定支援事業などを同時に走らせている。また、日本語オンラインレッスン事業の立ち上げ準備中である。

 

1.人生の仕事と目標

人生の目標

そもそもなぜこうした仕事をしているのかを説明するために、自身の人生の目標について話したい。

それは「人種、国籍、出身にかかわらず、誰もが活躍できる社会をつくる」ことである。特にその中でも、短期的には日本における外国人に着目し、外国人が日本社会で活躍しやすい環境を整えることをめざして仕事に取り組んでいる。

目標と仕事

この目標と仕事にどのような関係があるか。

主には2つある。

1つはそもそも起業することによって、自らキャッシュを稼ぎ、カネを生み出すことで社会に対する影響力を持つこと。

カネは力であり、大きな金額を動かすことができれば、それはそのまま社会を動かす力になる。まだまだ零細企業もいいところだが、当面は大きく稼ぐことを目標に仕事をしていきたい。

そしてもう1つは、事業そのものを通じて、日本社会で外国人が活躍するモデルケースをつくっていくことだ。

その一環として、日本茶の輸出に取り組んでいる。メイド・イン・ジャパンの製品を海外にセールスする際、日本で言語や文化を学んだ外国人は、その母国での営業活動で大きな力を発揮するだろう。日本茶の輸出を上手く展開し、日本で学んだ留学生をはじめとした外国人材の活躍の場をつくりたい。

また、現在準備中の日本語オンラインレッスン事業についても、海外で日本語を学んでもらうだけでなく、国内の外国人留学生や労働者の方に、低コストで自由な時間帯に日本語を学べる環境を提供し、留学生の日本企業就職を促進していきたい。

目標と仕事(ビジネス以外)

ビジネス、事業以外の面でも目標実現に向けた仕事をしている。

主には、一般財団法人未来を創る財団
「定住外国人政策研究会」プロジェクトメンバーとして、日本の移民政策に関する提言活動を行う、
掛川市多文化共生社会推進協議会委員として地域の多文化共生の推進を図る、などである。

また、学会での研究報告や一部コラムの執筆なども行っている。

僕は報酬の発生するものだけを「仕事」とは捉えていない。「仕事」とはより広義なものであり、世の中に対する働きかけ全般を指すものであると考えている。

だから、こうしたビジネス以外の活動も僕にとっては仕事であり、目標の実現に向けて重要な位置付けを占めている。

 

2.人生の転換点

大学時代:難民との出会い

では、なぜこのように外国人の問題に関心を持ち、その課題解決に取り組むようになったのか。

金城一紀作品の影響や、身近に日系ブラジル人の友人が多かったといったこともあるが、最も大きなきっかけとなったのは、大学3年生の夏に野本大監督『バックドロップ クルディスタン』を観たことである。

これはあるクルド難民の家族を描いたドキュメンタリィ映画である。

賛否両論ある映画ではあるが、この映画を観て私は日本にも難民がいるということを初めて知り、これをきっかけとして、この問題に強く関心を持った。

その後、牛久入管収容所問題を考える会(通称:牛久の会)に参加し、東日本入国管理センターに入所する難民申請者との面会活動に加わった。

ここで難民申請者と実際に話をしたことで問題意識を強め、歴史的経緯や法制度上の位置付けを学ぶために難民支援協会が開催していた「難民アシスタント養成講座」を受講する。

そして、卒業研究として「在日ビルマ難民における民族間関係の変容」をテーマとした論文を書いた。

研究員時代:外国人が活躍しやすい社会の構築に向けて

卒業研究に取り組み始めたころ、大学4年生になり、就職活動が始まった。

外国人政策に関する仕事をしたいと考えた僕はシンクタンク研究員になるか、新聞記者になってから政治家を目指すルートの2つを検討し、結局前者を選択した。

入社当初は外国人政策に関する仕事は全くなく、主に地域経済分析、産業振興計画策定支援の仕事をしていた。ここで仕事のいろはを教わりつつ、しかしなかなか待っていても外国人政策の仕事がなかったので、入社3年目から積極的に案件開拓に取り組んだ。

業務としては「堺市国際化推進プラン改訂支援業務」を受託したり、自主研究として市町村の外国人政策に関するアンケート調査を実施したり、自社事業として「留学生の活躍する未来」をテーマとしたシンポジウムを企画・開催したりしてきた。

さらに2014年には横断的組織として社内に「外国人活躍推進室」を設置し、
外国人関連分野の人材・知見の見える化を進めた。

こうした活動を通じて、会社から多大なサポートを受けながら、一研究員として外国人政策に関わる活動を展開してきた(シンクタンク研究員時代について詳しくは以下の記事参照)。

todayuya.hateblo.jp

起業のきっかけ

こうした活動に取り組みながらも、一会社員としての限界を感じ始めたのが入社4年目の頃。営利組織である以上、当然外国人政策分野以外の仕事も多々発生するし、また外国人政策分野がしっかり利益が出る分野であることを社内に説明し続ける必要があった。

当然社内からもたくさんの応援をいただいていたので、そのままシンクタンク研究員としてより様々な取組を展開していくこともできたのだが、2014年夏に起業を決意した。

これには自分の力試しをしてみたいという気持ちもあり、また前述の通り、自分の会社でキャッシュをがっつり稼いで、外国人政策により積極的に関与していこうという心積もりがあったためである。

また、この決定に大きな影響を与えられた作品として至道流星羽月莉音の帝国』がある。

www.shogakukan.co.jp

簡単に言えばヒロイン率いる高校生たちが革命部という部活をつくって世界に革命を起こす話なのだが、当時そのスケールの大きさとスピード感に衝撃を受けた。例を挙げると第1巻で事業立ち上げから事業売却、その資金を使って東証二部上場企業を買収するところまで話が進む。

同書を読むことで「世界を変えるならやはり自分で事業を起こすしかないのではないか」という思いがふつふつと湧き、勢い余って起業してしまったとも言える。

そして起業して1年4ヶ月…現在に至る。

もちろん物語のように上手くいくようなことはないのだが、アプローチの仕方は変わりながらも、「人種、国籍、出身にかかわらず、誰もが活躍できる社会をつくる」という目標に向けて動き続けることはこの10年ほど、ほとんど変わらない。

そしてこれからも、この未来像の実現に向けて生きていくつもりである。

 

3.未来をつくる君たちへ

あなたはどんな未来がほしい?

さて、ここまで、僕の人生にどのような転換点があり、どこをめざして仕事をしているのかを話してきた。

ここからは君たちの話だ。

機械になくて人間にあるもの

君たちが生きる未来について少しイメージしてほしい。

15年前、僕が高校生だった頃と比べても、インターネットは圧倒的に普及し、君たちを含む誰もがスマートフォンを手にし、さまざまなアプリケーションが僕たちの生活を手助けしてくれている。

これからはAIもますます開発が進み、僕たちに代わって機械がたくさんの仕事をしてくれるようになるだろう。

それはいわゆるホワイトカラーと呼ばれる事務系の仕事でこそ劇的に進んでいくかもしれない。例えば投資会社において、投資判断はすでに機械の仕事となっている。さまざまな事務処理も便利なソフトが開発されて、経費処理なども人の手を離れている。

こうした中で、機械にはできなくて、人間にしかできないことというのはなんだろうか。

それが、ここまで話してきたような「社会をこうしたい」「こんな仕事がしたい」「これが好きだ」という意思であり、モチベーションであると思う。

これからは「自分はこうしたい」という意思のない人は、機械を使うのではなく、機械に使われるという時代が訪れる。

もちろん機械に使われて働くということが悪いというわけではなく、それはそれで一つの生き方ではある。しかし、主体的に人生を生きていくのであれば、ぜひ自分がどうしたいのか、どう生きていきたいのか、この人生で何を成し遂げたいか、を考えてみてほしい。

能力や才能のことは一旦忘れてよい。それはきっと周りの人間や機械に助けてもらうことができる。なによりもまず、君の意思が最も大切になる。

広い世界を見る

そうは言っても現時点でしたいことも、なりたいものもないよ、という人もたくさんいると思う。というか、15歳ならない方が普通かもしれない。

だからこそ、そういった人は(もちろんなりたいものがある人も)ぜひ広い世界を見るということを心がけてほしい。

高校生である限り、家と学校を往復する日々があり、日常的に接するのは家族、学校の先生、学校の友人だけになってしまう。

しかし、今日僕がここで話しているように本当は身近に多種多様な大人たちがいるのだ。ぜひ学校の外に出て、いろいろな大人たちと出会ってほしい。

そして、ぜひ大きな書店に行き、いつもは覗かない本棚を眺めてみてほしい。あらゆるテーマについて、多くの人々が物語っていることがわかると思う。そして何かアンテナに引っかかるものがあればぜひ手にとってみて欲しい。

広い世界を見ろ、と言われてもいきなり来週からアフリカに旅立つことは難しいと思う。しかし、本屋は一部とは言え世界を内包した場所である。ぜひ本屋という世界に旅立ってほしい。

ノブレス・オブリージュ

ノブレス・オブリージュ」という言葉を知っているだろうか。

「高貴なる者の義務」といった意味だ。

君たちは日本に生まれ、掛川西高校という市内随一の進学校に通っている。そしておそらく県内外の優秀な大学に進学していくだろう。

もちろんそれぞれの事情はあると思うが、グローバル基準で言えば、もうこの時点で相当恵まれた、ラッキィな環境にいる、という位置付けになる。

妙なエリート意識、選民意識を持て、という意味ではない。ではないが、偶然この国に生まれ、高校に通うことができるという立場を享受していることを踏まえて、ぜひ少しだけ幸運な者の義務ということを心に留めてほしい。

もちろん自分自身や家族、身近な人間の幸せを第一にするべきであるし、それを犠牲にした方がよいということではない。

しかし、将来君たちが職業選択をするときに、ほんのちょっと自分の利益だけを追求するのではなく、自分に与えられた才能、能力を社会にどう還元するか、ということを考慮してみてほしい。

人生を賭けるに足るもの

広い世界を見て、自分のしたいこと・解決したい痛みを見つけ、社会に貢献する意思を持って、仕事をしてほしい。

それが今日君たちに伝えたかったことだ。もちろんこれが誰にでもできることとは思わないが、今日この教室に集まってくれた君たちならば不可能ではないと思う。

生き方次第ではあるが、仕事をする時間は、人生の中で最も長い時間になる可能性がある。そのため、どのような仕事をするか、ということは、どのような人生を送るかに直結する。

だからこそ、どんな仕事をして社会で活躍したいかという意思をぜひ大事に育み、人生を賭けるに足る何かを見つけてほしい。

今日からできること

その何かを見つけるために、たくさんの本を読み、気になることがあればインターネットを活用して情報を集め、夏休みには旅に出て、たくさんの人と出会ってほしい。

 

4.おわりに

今日はありがとう。僕もまだまだ駆け出しの起業家であり、発展途上、道半ばだ。

僕は僕のめざす未来のためにこれからもがんばりたいと思う。

ぜひ君たちも君たちめざす未来を考え、その実現のためにがんばってほしい。

君たちが30歳になる頃、僕は45歳、まだまだ現役で仕事をしている。

もし縁があれば、ぜひ一緒にいい仕事をして、いい未来をつくろう。